故障した時の状況
マザーボードをX570系の物に換装した後に、ゲームをプレイしてたら突然ディスプレイ(画面)が真っ暗になりました。
PCの再起動を行っても改善せず、マザーボードにあるステータスLEDの「VGA」と「BOOT」が点灯しっぱなしになったので、GPU(グラフィックボード)に何らかの異常があったのは間違いない。
原因として思い当たるのは、換装時に水冷クーラントが漏れてGPUにかかってしまった可能性くらいなので、とりあえずGPUを取り外して確認します。
故障個所の特定
GPUをPCから取り外し、水冷ブロックを外して点検していきます。
ぱっと見はきれいに見えますが、このどこかに故障個所が潜んでいる。
目視確認
ざっくり見ていても水冷用のクーラント液が数か所に付着している事が確認できたので、十中八九クーラント液が付着した事によるショートが起きて故障した可能性が高い。
特に、(画像上部中央付近にある)VRAM用のMOSFET周辺にはべっとりとクーラントが付着していて、ショートでもして反応したのか青っぽいカスがVIN周辺のチップ部品に付着しているので、このあたりが怪しい。
VIN周りが怪しいけれど、写真の赤枠で囲った個所にクラックがあるようにも見えるので、このMOSFETは壊れていそう。
短絡や抵抗値の確認
当たりはついているけれど、まずは、全体的に電源周りがショートしていないか確認します。
とりあえず、マイナスとショート(短絡)しているところは無く、VRAM用MOS側のコイルは17kΩ、チップ用MOS側のコイルは0.3Ω、3端子レギュレータも異常はなさそう。
電源を入れての確認
VRAM用MOSFET辺りが怪しいけれど、電源周りがショートしていないようなので、次に電源を入れて各箇所の電圧を確認します。
ひと先ず、12V、5V、3.3Vのラインは正常で、GPUCore用の1.3Vが出ているので問題なし(コア熱を持つので生きてる)、VRAM用ラインの電圧が0.2mVと出ていない。
やはり、VRAMラインの、特にクーラント液が付着していたMOSFETに異常があるのはほぼ確定。
確認できていることをいったんまとめてみる
- アースショートはしていない
- MOSFETのひとつ(GPU電源側)が水冷液で濡れていて、乾電池の液漏れでできる様な青緑の堆積物がてきていた。
- GPU電源側のMOSFETは変形しているっぽい?
- よく見るとMOSFET近くのチップ抵抗の片側が黒く酸化している?前は黒くなかったような?
- 電源を入れるとGPUチップは熱くなる。
- GPU用の電源は1.3V出ているので、GPUチップが熱くなるのと一致している。
- 補助電源11.9vは問題ない。
- MOSFETのVINへは11.9Vが来ている。
- VRAMの電源が2箇所?とも0.25mvしか出力されていない。
VRAM用のMOSFET周りを詳しく調べてみる
以上の、確認できたことから考えるに、やはり水冷用クーラント液で濡れていたMOSFETの周りが怪しい。
という事で、その周りを重点的に見ていきます。
やる事は簡単で、MOSFET周りの短絡や抵抗値を測るだけ。
幸い、VRAM用MOSFETは2箇所あって、Core用も同じ型番のMOSFETなので、それと比べればわかるはず。
で、測っていくと早速怪しい個所を発見。
0Ω抵抗が壊れているっぽい
画像の、赤で囲ってある部分、これはチップ抵抗なのですが。
このチップ抵抗が10MΩ以上あり、測ってると下がっていく。
もう一つの、メモリ用MOSFETの同じ箇所に接続されているチップ抵抗を測ると0Ωだったので、このチップ抵抗は0Ω抵抗という事。
であれば、同じVRAM用としてついているなら、10MΩ以上と言うのは怪しい。このチップ抵抗はほぼ確実に壊れていると思われる。
正確に測るため取り外して計測。やはり10Ω以上で、測っていると数値が下がっていき安定しない。これで、チップ抵抗が壊れているのは確定。
チップのサイズは1mm×0.5mm(2019年頃の人気サイズ)なので、日本では一般人が買えるルートだと割高なので、とりあえずAliExpressで注文しときました。
届くまでに、他にも壊れていないかを確認していきます。
チップ抵抗が0Ωなので、端子間を導通させれば他が壊れていないか確認できるので、銅線でつないで計測します。
MOSFETも壊れているっぽい
銅線を半田付けしたあと、チップ抵抗のあった個所の抵抗値をはかると、正常動作していると思われるもう一つのMOSFETの同じ箇所と抵抗値が異なるので、これはMOSFETもお亡くなりになっている可能性が高い。マイナスショートがないか確認してから試しに電源を入れるも、映像出力はなし。
うーん、MOSFETも部品を取り寄せて交換したほうが良さそう。
と、ここで凡ミスしました。
電圧測ろうとしたら、手が滑って正常動作してると思われる方のMOSFETをショートさせて焼いてしまいました。
「ボシュッ」って音がして、針の先程の大きさに燃えてMOSFETに穴が空きました。
はい、完全にやらかしました。
MOSFETを頼むことは確定していましたが、2個必要になしました。AliExpressに、ちょうど2個セットで送料込みの物があったので、それを注文しました。ただ、予備は無いので、ハンダ付けは失敗したらまた注文する必要が出てくるので、失敗しないように気をつけねば。
道具や部品が到着したので部品交換
2週間ほどで、ヒートガンやら半田ペーストなどの道具や、0Ω抵抗とMOSFETなどの部品が届きました。早いものは1週間から10日ほどで届きますし、急ぎでさえなければニッチな部品も安く手に入るのでありがたいですね。
交換していきます。
まずは故障部品の取り外し
ヒートガンを使うのが初めだったので、最初は部品が壊れるのにビビッて350℃に設定してましたが、その設定だとはんだが溶けける気配は皆無で、徐々に温度を上げてなんとか溶けました。
と言うか、元々のはんだが中々溶けない。取り外し後のはんだ除去ではんだゴテでも溶けづらい。
まあ、RX5700XTのリファレンスモデルは、GPU温度100度(ジャンクション温度110度)の熱々でも公式から「仕様です」と言われてる化け物GPUなので、融点がかなり高いはんだの可能性は高い。そのうえでGNDやVINなんかはすぐ裏のプリント配線の面積が広いのか熱が奪われていく感覚があるので、プレヒーターもあったほうが楽なのかもしれない。
で、温度やら風速の最適な設定を探しつつ、チップ抵抗やらチップコンデンサが巻き添えで外れたりしながら取り外し完了。(1㎜サイズのチップ部品なので、紛失しなかっただけ幸運でした)
(5700XTリファレンスモデルはMOSFETのすぐ側にコイルがあるので、ヒートガンを使う時に、コイルをだけはアルミホイルでガードしてます。)
次は交換部品の取り付け
先の取り外しにて、チップが飛ばない風速は3と分かったので、先にチップ抵抗とチップコンデンサを、取り付け箇所をIPAで洗浄してから、はんだゴテと線はんだを使って取り付けていきます。
(この時点では、はんだゴテのが取り付けやすかったけど、ヒートガンに慣れた今ならはんだペーストとヒートガンのほうが綺麗に付けれる気がします)
MOSFETの取り付けは、IPAで洗浄してから、はんだペーストとヒートガンを使います。
1つ目のMOSFET(元々の故障個所)はヒートガンの設定を、まだビビッて430℃とかに設定したのですが、15分くらいかかってやっと取り付けができました。
2つ目のMOSFET(ショートさせて焼いた方)は450℃風量3にしたところ5分とかからずに取り付けできました。
取付完了したけど失敗かも?
取り付け後、抵抗値などを測って問題なさそうなので、電源を繋いでみると、メモリ電圧が一瞬だけ1.7V出てすぐに0.2mVになる。うーん、失敗かなー?
時間が無くなったので、一旦終了。
はんだ不良っぽい?
それからちょくちょく基盤を見ていたら、MOSFETのはんだが不足しているがあるように見える。(宝石用のルーペしかないのでよく見ないと分からない)
はんだ不良の箇所が制御ICとやり取りする信号ピンなので、ここがはんだ不良な事によってうまくMOSFETが動いていないようです。
はんだ不良個所の修正
ってことで、はんだを盛っていきます。
最初にIPAで洗浄して、次に、はんだペーストを盛ってから、ヒートガンで温めていきます。
ヒートガンの設定は450℃風量3にしたところ、ものの数分で完了しました。
蛇足ですが、使ってるヒートガンだと、設定を450℃エアー3がベストセッティングの様ですね。
目視により、はんだが綺麗に盛れている事を確認して修正完了。
修理成功
その後、まずは短絡や抵抗値の確認をします。
マイナスショート、0Ω抵抗が0Ωな事、MOSFETの端子の抵抗値が揃っている事を確認します。
確認出来たら、次に電源投入をして電圧を測ります。
VRAM用のコイル部分(出力側)で1.72Vが計測できたので、一旦、電源を落とします。
このまま画面出力を待ってもいいのですが、ヒートシンクとファンを外した状態なので、映っても確実に熱暴走しますから、ここは焦らずに慎重に行きます。
映像の出力確認
ただ、水冷ブロックを取り付けるのは手間なので、とりあえずは純正のクーラーユニットを取り付けました。再水冷化は、また後日。
PCの電源オンにするとGPUのファンが回り始め、止まることなくそのまま回ったので安堵し、少し待つと、お馴染みのロゴ画面が表示されたので一安心。
一度目の起動には結構、時間がかかったので、念のためWindowsが起動してから再起動するといつもの速度で起動しました。
交換後の初回起動ではGPU側かOS側での認識に時間がかかったのかな?
3DMarkも完走
確認のため、3DMarkの「Fire Strikek」と「Time Spy」を走らせてみました。
Fire Strikek(V1.1) のスコア 23,236
GPU温度が90℃を超え平常運転で、無事に完走しました。
DirectX11の標準テストで「23,236」、問題なく性能を発揮できています。
Time Spy(V1.2) のスコア 9,109
こちらも同様に何事もなく完走しました。
こちらはDirectX12のテストで「9,109」、こちらも問題なしです。
修理完了【成功】
一応、MHWとかの重量級ゲームを起動して問題ないことも確認できたので、これにて修理完了。良かった~。
と言うか、スコアよりも純正クーラーによって爆熱になっている事の方がヒヤヒヤしました。
今回購入した部品と道具
修理を完了したので、今回購入したモノと費用(送料込み)をまとめておきます。
部品
- 0Ω抵抗1ロット100pcs 280円
- MOSFET FDMF3170 2pcs 1,200円
道具
- ヒートガン 4,354円
- はんだペースト40g 534円
- 注射器入りフラックス 1,267円
- 電子顕微鏡(おもちゃ) 1,300円
買ったけど使わなかったもの
- メモリ用ステンシルキット15ピース 443円
- はんだボール 0.4mm 278円
電子工作系の物であれば、AmazonよりもAliexpressで買うほうが種類が豊富で、とある事情で送料入れてもお得な場合が多いです。(というか、この手のコアな物はAmazonは越境販売か転売なのでモノは変わらないか、Aliexpressの方が新しい場合がほとんど)
まとめ
自分のミスで少し手間取りましたが、初めてのGPU修理で成功したのは良かったです。
因みに、部品だけなら「1,480円」。
また、「使った部品」だけの合計金額なら、0Ω抵抗は1個しか使っていないので、1,203円です。
結果的に直せたので、お得意だったといえます。
部品以外にもコストかかってるので、直せなかったら目も当てられませんが…
この手の修理には、手先の器用さと、知識、経験が必要なのが前提です。が、ポードの設計は様々で、AMDのリファレンスモデルはボードビューがないことが多い。なので、基盤の解読と閃き、そして何より部品が調達できるかが重要ですね。
特に、今回交換した、0Ω抵抗などのチップ抵抗は、年代によってサイズが変わります。MOSFETも色々あり、同じ型番のモノが取り寄せできないと、ほぼ詰みます。
なので、セルフ修理は誰にでもおすすめとは言えません。
ただ、今回の様に、AliExpressで比較的簡単に揃えることができたり、チップ部品の交換で直る簡単な故障であれば挑戦してみのも楽しいですね。
と言うか、この手の修理では、チップ部品が豊富なAliExpressは便利ですね。